Pixel6シリーズからはTensorというGoogle独自のSoCを搭載しています。
独自SoCを搭載することにより、Googleの考えるサービスやソフトウェアに対応させることが容易になりました。
Googleの説明では「機械学習(Machine Learning、以下ML)は Google AssistantやGoogle翻訳などで活用され、利用者のサービスの品質を向上させてきましたが、スマートフォンそのものにMLを搭載してきたことはなかった。Google Tensorはそれをスマートフォンそのものに搭載させた。独自開発SoCを開発して製品開発をすることでユーザー体験の向上と統合をもたらすことができ、MLでの優位性を保つことができる」と説明しています。
具体的にTensorを搭載することにより、音声認識の向上、翻訳機能の向上、カメラ(コンピュテーショナルフォトグラフィーの向上)、セキュリティの向上といった部分で進化しています。
ここでは具体的にPixel6シリーズについての説明は省きますが、あまり詳しくない方にわかりやすく説明するとGoogleの2021年に発売したPixel6シリーズはiPhoneはもちろんのこと、他のAndroidでもできない機能が搭載されて独自機能が強化されています。
今回はその機能のうちの一部である音声認識技術が、私の普段の仕事である訪問看護の利用者さんとの関わり方を劇的に変えてくれた、そんな話をしたいと思います。
ボードに会話内容を書くことは会話の体験を損なっている
私の利用者さんの中には聴覚に障害がある方がいます。以下Aさんと便宜上記載させていただきます。
Aさんは30代男性で子供の頃から聴覚障害がありました。聴覚障害は訪問看護の直接の導入理由ではありませんが、聴覚障害があることによって友人や仕事、コミュニティへの参加などの面で大きな障害となっていました。
ご本人とお話しすると「新しい場所に行きたいとはあまり思わない。新しい人と出会ったとしても自分と会話するためには相手の人にボードに文字で書いてもらわないといけない。それを直接面倒だ、などと言われることはないが自然と周囲の人とのコミュニケーションがない状況になっている。自分には他の人と直接対面でお話しすることは難しいと思う。」とお話しされていました。
私がGoogle Pixel 6 Proを購入したのは2022年の3月頃でした。購入理由はGoogleの新しい独自SoCがもたらしてくれる新しい体験を実際に体験して理解したいというものでしたが、一つの理由には聴覚障害のあるAさんとのコミュニケーションで活用したらよりよいコミュニケーションツールになってくれるかもしれないという期待もありました。
今までの訪問看護ではAさんは普通に喋ってもらい、私がそれに対する返答をボードに文字にして書くか、iPadとキーボードを持ち歩いていましたのでそれを使用してiPadに入力した文字を読んでもらうかで対応していました。私はタイピング入力速度が速いのでキーボードを使うことが多かったです。しかし、それでもキー入力には相手の会話を理解する⇨自分の考えたことを頭の中で文章にする⇨入力する(タイプミスがあれば修正する)といった流れが必要でした。
Google Pixel 6 Proを使用すると上記の流れの中で「自分の頭で文章にする+入力する」という普通の口頭会話では存在しないプロセスを省略可能です。実際にAさんとの会話で使用すると会話でのストレスが激減しました。いちいち会話の際に文字入力をする必要がないので会話に集中可能ですし、その他のこと、例えば内服薬の残数を数えたりしながら会話をするなどが容易になりました。今までは会話をするとなると他の作業は一切できなかったのです。なぜならキー入力やボードに文字を書く必要があったからです。
また会話時に画面を注視する必要がないので、相手の表情を見て会話をしやすくなります。コミュニケーションは相手の言っている言葉そのものだけじゃなく、相手の表情や体の動きといった他の要素を加味した統合的な体験です。言葉以外からも読み取れる部分もありますのでそういった部分でPixel 6 Proの音声認識技術は聴覚障害者にとって会話をより自然にし、会話の体験を劇的に向上してくれる可能性を秘めた素晴らしい道具です。
Aさんの反応は?
Pixel 6 Proを導入したことによって会話のストレスが減った、というように私自身は感じていました。
Aさんは今までボードに書く必要はありませんでしたので直接的に音声認識技術の導入によって手間が減ったわけではありません。しかし、最初にPixel 6 Proを導入した時にAさんからは「このスマートフォンはどこで買えますか?いくらしますか?iPhone(Aさんの所有端末はiPhoneです)でも使えますか?」と言った反応があり、興味を持ってくれている様でした。
他の看護師が訪問した時には「あのスマートフォンの機能があると便利ですよね」と言った会話があったそうです。AさんからみてもPixel 6 Proの音声認識技術は良いと思ってくれているようです。
ちなみにiPhoneでも音声認識ができるアプリがありますのでAさんにはそちらのアプリを紹介しました。
音声認識制度について
音声認識の精度については発売時から話題となっていました。主に記者の方などがインタビューなどの際に会話を録音することで音声を文字に変換して使用した際に音声認識の精度がかなり良いのでとても使いやすいといった内容でした。
私自身は他の音声認識技術を使用していた経験がほぼないので比較はできないのですが、実用上大きな問題は感じていません。細かい部分で変換ミスがあったりしますが前後の文脈から明らかに間違いだとわかることが多く、Aさんが会話の内容が理解できてないなと感じることはあまりありません。
さらにすごいのは薬の名前もしっかりと認識してくれることです。カタカナの薬剤名はもちろん、漢方も認識してくれます。よく処方される薬の名前を実際に認識させてみましたがかなり認識精度はいいと思います。
バッテリーの消費量について
具体的にPixel 6 Proで音声認識を利用するには標準で搭載されている「レコーダー」というアプリを起動して録音をして「文字起こし」というボタンを押すと会話の音声を拾ってくれて、それが文字に自動的に変換されて画面に表示されます。1時間の訪問看護でずっと画面をつけっぱなし、音声認識を使いっぱなしにしてバッテリーの消費は10~20%程度消費されます。
私の訪問看護での移動手段は自動車です。私物ですが自動車内で充電できる充電器を常に持ち歩いていますので充電環境には困りません。もしもそれがなかったとしても1日でPixel 6 Proを必要とするほどの聴覚障害を持っている方を担当することはあっても1回くらいの頻度なのでバッテリーの問題はあまり問題にならないです。
コストの問題
Pixel 6 シリーズは2021年に発売されたばかりのスマートフォンです。今後Googleが発売されるスマートフォンにはこれらの機能が継承されていくと思うのでいずれ中古で安く端末が販売される時期が来ると思います。
現在では中古で5万円台でProではないPixel 6が販売されている様です。端末調達コストが下がれば聴覚障害を持っている人も手に入れやすくなります。半導体の性能は劇的に進化する一方で、単位性能あたりの価格は低下していくというムーアの法則がありますので将来的には端末の調達コストが大幅に下がっていくことが期待できると思います。
訪問看護の良いところは自由度があるところ
私が思う訪問看護の良いところの一つは、こういった新しい取り組みを自分で考えて看護に反映できるところです。私は新しい技術を自分の仕事で活かしたらどうなるだろうかと考えたり、実際に取り組んで見てその結果がどうだったのかを考えるのが好きです。こういう取り組みをしても問題視しない今の職場に感謝しながら仕事をしています。
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