仕事を探すときに必ず見ることになるのが求人票や求人の広告だと思います。就職活動・採用活動は仕事を探している人と働いてくれる人を探している会社側のマッチングです。つまり、お互いの利益がぶつかる場所であるということを忘れないで下さい。
利益がぶつかり合うということは逆に言うと相手の考えていることが分かれば、働き始めてから「こんなはずじゃなかった!」と思ったり、思っていたのと違うと感じるストレスを減らせるということです。
ここでは訪問看護ステーションで会社側が働いてくれる看護師に要求することと、これから訪問看護ステーションで働こうと思っている看護師さんが事前に理解していないと理不尽だと感じてしまうことについて求人にかかれているお給料のことから考えていきます。
給料
お給料が高いかどうかというのはどのようにして私達は考えているのでしょうか?そもそも、私達は何かが優れているとか、劣っているとか物事の評価をするには別な何かと比較が必要です。つまり、お給料が高いかどうかというのは別な何かと比較しないと言えないんです。
働く側からみたお給料が高いかどうかというのは一般的には近隣の訪問看護ステーションと比較して、提示されているお給料の金額が1万円高いからこの訪問看護ステーションのお給料は高いと感じていることがほとんどではないでしょうか?
お給料は貰う人がいるということは払う人がいます。払うのは訪問看護ステーションを運営している法人です。では、相手の立場に立った場合のお給料の金額を考えてみましょう。
ステーションの収入を知る
訪問看護ステーションの収入は、利用者さんに訪問看護を提供した対価として頂く料金を元に運営しています。あなたがもらうお給料はこのステーションの収入から払われます。
訪問看護ステーションが提供する訪問看護の料金は介護保険、医療保険、公的な保険を使わない自費サービスによって料金が変わります。ここでは働く看護師がもらう給料を考えることが目的なので、細かい料金については詳しくは触れません。大まかに理解して頂きたいと思います。
介護保険では1回の訪問看護にかかる時間で料金が決まります。ほとんどのステーションでは30分未満、30分以上60分未満のサービスがほとんどだと思います。本当は20分未満だったり、60分以上90分未満という区分もありますし、各種加算によって料金が変わりますが、ここではあえて触れません。30分未満でサービスを提供するとステーションに入ってくる収入は大体5000~5500円くらいです。30以上60分未満サービスを提供すると9000円くらい入ってきます。
医療保険の訪問看護では1日あたりの料金が設定されています。週4日以上いくかどうかや各種加算などで料金が変動しますが、1日あたりおよそ5500~6000円くらい入ってきます。自費サービスについてはあまり使われませんし、各ステーションによって自由に決められるのでここでは触れません。
訪問看護の料金が分かったら、提示されているお給料と計算してみましょう。毎月のお給料が32万円の訪問看護ステーションがあるとします。毎月のお休みが平均して10日(年間休日120日を想定)あるとして1ヶ月あたり働く日数は20日程度になります。
320000円 / 20日 = 16000円/日
16000円 / 8時間 = 2000円/時間
1日の看護師の給料が16000円だとすると、30分未満の介護保険で換算すると3回は訪問看護にいかないと支払うお給料だけで赤字になってしまいます。サービス提供にかかる原価はお給料だけでなく、事務所の家賃や車両にかかる費用等もあります。
一般的に訪問看護ステーションの人件費率は70~80%です。つまり、毎月300万円の収入があるステーションであれば210万~240万円くらいは看護師の給料の支払いに使われているということです。これをどのように分配するのか(一般的にインセンティブ制度や役職の違いによって誰がどれだけお給料をもらうのかが変わります)という分配方法を経て、各看護師にお給料が支払われるという形になります。
16000円/日というお給料を人件費率70%で考えてみると、看護師のお給料以外の費用を含めた原価は23000円/日程度と予想できます。この原価と同じくらいの費用を介護保険の30分未満の訪問でこなそうとすると、4回/日で赤字と黒字の境界線より若干赤字より、5回/日で利益が出る計算になります。
働く時間についても少し考えてみましょう。まず実際に利用者さんに提供するサービスの時間です。
30分×5回 = 150分(2時間30分)
1日に利用者さんに直接サービスを提供する時間は2時間30分は必要となります。移動にも時間はかかります。平均して15分かかるとすると、朝事務所を出てからサービスを5回提供し終わるまで事務所に戻らない場合は
15分×6回 = 90分(1時間30分)
自転車で移動する場合はいい運動になりますね。
ここまで理解できれば、お給料を月32万円で毎月10日(年間休日120日)を約束してくれる訪問看護ステーションのあなたに期待する最低限のレベルは毎日4~5回は訪問看護に行ってくれて、自転車・バイク・自動車を60~90分運転してくれることが最低ラインの働き方ということになるであろうということは想定できます。もちろんこれ以外に書類や記録の作成等の仕事もあります。
利用者さんは入れ替わる
提供するサービスの量は利用者さんの数と状態によって変化します。状態が悪くて特別訪問看護指示書が発行されていたが、改善されたので訪問回数が減ったり、状態が更に悪化して入院してしまったり等でサービスが無くなることが多くあります。
利用者さんは放っておいても自然に減っていきますので、新しく利用者さんが入ってこなければいけません。では、新しい利用者さんはどのようにして訪問看護ステーションを利用をするのでしょうか?
ほとんどの利用者さんは担当のケアマネージャーから紹介されたり(ケアマネがいるということは介護保険を利用していることが多いです)、通っている病院やクリニックの紹介だったりします。定期的に新しい利用者さんが入ってこないステーションの場合、赤字にリスクがあります。訪問件数によって支払われるインセンティブ制度を導入している訪問看護ステーションが一部にありますが、これは毎月変動するステーションの収入のリスクを軽減させる方法という側面もあります。
新たに利用者さんを紹介してもらうための基盤がどの様になっているのかを調べるとステーションの変動リスクに付いて少し知ることが出来ます。訪問看護ステーション単独のステーションもありますが、居宅介護支援事業所や、病院・クリニック付属の訪問看護ステーションもあります。そのような場合であれば同じ法人の中で利用者さんを紹介してもらえるかもしれません。看多機併設の場合は看多機の利用者さんの訪問があります。この場合は看護師に積極的な営業活動を求められる可能性が減りますし、訪問時間が長くなるほどお給料が増えるインセンティブ制度を導入しているステーションであればお給料が安定しやすくなるでしょう。
ステーションによっては積極的な飛び込み営業を求めるステーションもありますので、看護師に求める営業スタイルやステーションが用意している営業活動の支援環境についても確認しておきたいですね。
介護サービス情報公表システムを使って運営状況を調べる
今まで説明してきた要因によって訪問看護ステーションが払うお給料は影響を受けます。ここまで読んでくれた人の中には、「私が今面接を受けようか考えている訪問看護ステーションがどれだけのサービスを提供しているかどうかなんてわからないよ」、「面接で聞く前にもっと訪問看護ステーションの運営状況がわかる方法はないの?」と思った人がいると思います。実は大体把握する方法があります。
実は厚生労働省は毎年各ステーションに運営状況について報告を受け、それをインターネットで公開しています。それが介護サービス情報公表システムです。こちらのリンクから都道府県を選択して「介護事業所を検索する」をクリックすると訪問看護ステーションの名前を入力して調べることが出来ます。この情報を見る時に注意するのは、各ステーションが申告した内容を公表しているだけで内容を細かくチェックされているわけではないということです。つまり、実態とは違った情報が掲載されている可能性はあります。明らかにこれはおかしいんじゃないか?という項目があれば、そのステーションは経営をちゃんと考えて運営されていない可能性もあるので注意が必要だと思います。
この介護サービス情報公表システムでは、大まかに以下の情報が掲載されています。
- ステーションの営業時間・定休日
- ステーションを運営している法人の種類と名称
- ステーションの管理者の名前
- ステーションの従業員の常勤・非常勤の人数
- 前年度採用した職員の人数
- 前年度の退職者の人数
- 緊急時訪問看護を実施しているかどうか(オンコール対応のこと)
- 所属している保健師・看護師・准看護師・事務員の人数
- 従業員の介護サービスの業務に従事した経験年数と職種としての経験年数
- ステーションが実施している従業員に対する研修などの実施状況
- 利用者さんの人数
- 利用者さんの性別
- 利用者さんの年代とその人数
- 利用者さんの要介護度と要介護度ごとの人数
- 直近1年間に実際に利用者さんに実施した医療行為の種類(胃ろう・中心静脈栄養・点滴・膀胱留置カテーテル・在宅酸素・人工呼吸療法・CAPD・人工肛門・人工膀胱・気管カニューレ・吸引・麻薬を使用する疼痛管理等)
- ステーションが1ヶ月に提供する介護保険の訪問看護の提供時間
- 行政からステーションに対して行われた処分・指導の内容
求人票だけでは実際の働き方はわかりにくい
これから働く訪問看護ステーションを選ぶ時には求人の内容を読むだけではなく、採用をする側の意図を汲み取ることはミスマッチングを防ぐ上で大切です。またステーションの運営状況等を詳しく知ることで、求人には書かれていない実際に求められる働きを伺い知ることもできます。
訪問看護の現場では、患者のニーズや状況が日々変化するため、柔軟性や対応力も求められます。自分のスキルや経験を活かし、安定した環境で働けるかどうかを検討しましょう。
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